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社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録6】本来の意味で成長戦略


 2018年4月に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成28・29年度版「社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~」を読みました。

 前回、第12回目の記事はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録5】最適保障と財源


 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ(笑)読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

 講演録のトリであり、このシリーズのトリでもある権丈教授の報告書はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第6章】分配なくして成長なし

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■講演録6.医療政策会議報告書案と社会保障政策に関する若干の捕捉…
 権丈 善一 氏

・子育て支援、医療・介護、年金という社会保障政策は、人口構造や財政金融政策の上に乗っているのであって、これらを独立させて議論することはできません。いわば、社会保障政策は、人口構造・財政金融政策という大海に浮かぶ小舟のようなもの p137
・少子高齢化と国民経済の関係を見る指標は、65歳以上人口を何人で支えているかとかいうようなものではなくて、就業者1人当たりの非就業者というような数字で見るべきで、この数字はある程度過去からも安定しているし、将来的にもそれほど心配するような話でもない p137

・人口減少社会で重要な経済政策の指標は、1人当たりGDPであって、総GDPではありません(中略)日本の1人当たりGDPの伸びは、他の先進諸国と比べてそれほど遜色があるわけではない状況のなかで、問題はこれをどう分配していくか。きちんと消費者の購買力を育てるために、しっかりと分配をしていかないと駄目ですよというようなところも共通している p137
・問題は、人々が長生きしていることではなく、彼らがあまりにも早く引退していること(中略)特に65から74歳は、心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めているという科学的根拠があると発表されています(中略)医師、医学の説得力はすごい p138

・社会サービスをしっかり充実させていったり、高所得者から低所得者に所得を再分配していったり、あるいは1次分配のところでしっかりと賃金を支払っていくというような仕組みを作っていくことこそが、実は経済に活力を与えるといいますか、本来の意味で成長戦略 p138
・日本は、給付を先行した福祉国家であって、給付の先取り、景気の先取りをしているということは、しっかりとみんなで認識しておく必要があります p139

・「2大政党による競争は必要なのではないか?」と問われたから、「まぁ、ルールを守って競争すればね。ウソ、いかさまなんでもありのルール違反の競争が展開されると、悪貨が良貨を駆逐するってことになって、政治のレベルが落ちていくだけなんですよ」と答えています p141
・これから先の財政政策を考えていくと、消費税増税を着実に行わなければならない。経済状況を勘案しながら前倒しも考慮したほうがよいのではないか。軽減税率も考え直した方がいい。さらに、消費税10%の先の検討を速やかに開始し、その際は毎年1%の引き上げも視野に入れていってよいのではないのか p142

【配布資料】
・公的年金収入を給与収入と等しく課税 p146
・かかりつけ医が、自分の住む場所のどの医療機関にいるのかを簡単に検索できるシステムを作る p147
・フリーアクセスを守るためには、緩やかなゲートキーパー機能を備えた「かかりつけ医」の普及は必須 p148

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 ついに完結しました。第1回目の記事が6/24でしたので苦節2ヶ月、計13本の記事となりました。

 権丈先生の論は前提であり、まとめです。序章・第6章・講演録6、この3つを読んでから他の章・録を読むことで理解は深まると思いますし、最低限このあたりの理解がなければ社会保障の議論にならないのはないでしょうか。


 日々私たちが接する新聞・テレビ・雑誌などから発せられる公的年金保険をはじめとした社会保障の報道は要領を得ず的外れを感じ、誰に何を伝えたいのかわからない内容にしか見えません。センセーショナルな不安をあおる見出しで、読まれさえすれば良い流れしか感じないんです。残念すぎます。
 そして私たちにはこれらの情報しか身近にありません。今回の13本のような内容を報道で目にする機会は私の知る限り存在したことがありません。

 今回の13本の内容はすべての前提のため、一般生活者が知って得するようなものでもありませんが、報道にあおられない心の持ちようにはつながります。よくわからない不安・不信に心揺らされることなく生活できるのはある種の「得」と言えるかもしれません


 成熟社会・給付先行型福祉国家を理解し、分配なくして成長なし・生活の質を豊かにする需要の創出が近い将来に実現されること、これが少子"超"高齢化・人口減少の進む日本の「本来の意味で成長戦略」であること。

 今回の内容は言葉で表すのが難しいほどに勉強になりました。
 まとめられた日本医師会の関係者の皆さまには感謝を申し上げます。

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 今回の13本の記事のリンクまとめです。

 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~
 【序章】給付先行型福祉国家
 【第1章】相矛盾する国民の意識
 【第2章】無邪気な(naive)誤り
 【第3章】もつれた糸理論
 【第4章】対人社会サービス
 【第5章】生活の質を豊かにする需要の創出
 【第6章】分配なくして成長なし
 【講演録1】成熟社会を理解する
 【講演録2】頼りあえる社会
 【講演録3】経済と社会保障は表裏一体
 【講演録4】社会保障モデルから生活モデルへ
 【講演録5】最適保障と財源
 【講演録6】本来の意味で成長戦略 ← 本記事


社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録5】最適保障と財源


 2018年4月に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成28・29年度版「社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~」を読みました。

 前回、第11回目の記事はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録4】社会保障モデルから生活モデルへ


 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ(笑)読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

 講演録5番手の二木教授の報告書はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第2章】無邪気な(naive)誤り

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■講演録5.今後の超高齢・少子社会と医療・社会保障の財源選択 ―『地域包括ケアと福祉改革』序章をベースにして
 二木 立(にき りゅう)氏

・特に私がここで強調したいのは、今や国民皆保険制度は、医療の枠を越えている、つまり国民医療を守るというだけではなく、日本国民の一体感、統合性、日本社会の安定・統合性のためにも、決定的に大事であるということ p106
・社会保障のうちでも特に生活保護などは「最低限保障」であるのに対して、医療、それから介護もそうだと思いますが、それは「最適保障」、必要で十分で最適な保障なのだということを確認したい p106

・日本の医療満足度の他国に比べての低さの理由の1つは、生活満足度が低いせい p106
・日本国民の医療の平等意識がものすごく強くて、これは一貫しています。7割の国民が平等な医療に賛成。お金がある・なしで違う医療でもよいという人が2割。あと大事なのは、アメリカなどと違い、日本は所得階層間での意見の違いが少なく、階層間の違いはたった5%(中略)医療に関しては、日本はまだまだ分断されていないことが分かる p107


【添付論文1】

・1960年には、65歳以上の高齢者(大半が国民健康保険加入)の医療機関「受療率」は現役世代(健康保険本人が多い)のそれを大幅に下回っていました。同年の65~74 歳の受療率(人口10万対)は4317であり、現役世代のうちもっとも受療率が高かった45~54歳の6121より、30%も低かった p112
・1973年の「福祉元年」には、国レベルでの老人医療費無料化、高額療養費制度の新設、健康保険家族の医療給付率7 割化が実現(中略)医療保険間の受療率格差はほとんどなくなり、高齢者の受療率も急増(中略)同じ期間に、日本人の平均寿命も急上昇 p112

・一般には、医療・社会保障費の財源としては消費税が真っ先に上げられますが、私は日本の現行の医療保障制度が社会保険を主体としており(中略)主財源は社会保険料であり、公費(消費税、所得税・企業課税等)は補助的に用いるべきと考えます p115
・社会保険料引き上げの中心は、他の医療保険に比べて低すぎる組合管掌健康保険の保険料(特に国際的にみて非常に低い事業主負担分)の引き上げ p115

・患者の自己負担割合の引き下げ(中略)受診率が上昇することは確かですが、私の知る限り、その受診率上昇が「無駄な受診」であることを実証した研究は国際的にもありません p116
・高額療養費制度の改善


【添付論文2】

・保険料(正確にはそれの基礎となる標準報酬月額または所得の賦課限度額)の上限は、被用者保険だけでなく、国民健康保険でも引き上げるべき p118
・アメリカ企業の社会保険料水準は日本より低いが、アメリカの(大)企業が負担している民間医療保険料は日本よりはるかに高額 p118
・現行の制度・政策の下では、消費税の引き上げの大半は、年金の国庫負担率引き上げや少子化対策に使われ、医療費増加の主財源にはならない p119

・よその分野の財源に依存するのは「情けない主張」 p120

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 上にリンクを貼りました報告書の記事と同じ図をこちらでも紹介されています。p109の図1です。これは権丈先生の「ちょっと気になる社会保障 増補版」のp4で登場する超重要データです。この理解がすべての大前提です。

 医療への意識の持ち方の傾向や、受診時の負担割合が変わることでの変遷など、興味深い情報です。「最適保障」大事な用語だと思いました。


 医療に関して主たる財源が社会保険料なので、大企業の組合健保の負担を上げることを書かれています。国民健康保険や協会けんぽに比べて保険料率の低い組合健保は確かに多く存在しますし、その負担を企業側も含めて上げていくというのは至極当然の論調に見えます。
 ただ、大企業ほど従業員の健康管理や福利厚生に費用を掛けてきたからこそ現在の平均的な健康状態の良さと保険料率の低さを維持できているという自負もあろうかと思います。そのバランスがどのあたりが適正なのか私にはわかりませんが、これが大きな改善につながるとしても、そこに解を求めることが適正なのか私にはわかりません。

 医療について割合的に多くの恩恵を受けるのは高齢者です。賦課方式である公的年金保険と同様に現役世代の負担を増やすのは全体として更なる世代間扶養につながるのではとも思います。
 何回も書いていますが、高齢者でも負担できる人には負担してもらいたいんです。低所得でも高資産の方々にも等しく負担してもらう。高所得者だけを狙い撃ちにする手法には限界があるのではないでしょうか。


 消費税は上げにくい、でも社会保険料は上げやすい。(ちなみに公的年金保険料は2017年度より固定(国民年金は16900円×改定率、厚生年金は被保険者負担9.15%)なので、ここで言う社会保険料とは健康保険・国民健康保険)

 結局は時世なのでしょうか。消費税一択に感じますが、正解は将来になってみないとわかりません。ただ、こういった発信が社会保障を考えるきっかけになってもらいたいという主旨で感想記事をこうしてまとめていますし、どちらかといえば財源の話は今後の改善に向けた応用編です。基礎情報を得ることのほうが圧倒的に大事なのは間違いありません。


 <次回> 講演録6.医療政策会議報告書案と社会保障政策に関する若干の捕捉…


社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録4】社会保障モデルから生活モデルへ


 2018年4月に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成28・29年度版「社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~」を読みました。

 前回、第10回目の記事はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録3】経済と社会保障は表裏一体


 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ(笑)読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

 講演録4番手の猪飼教授の報告書はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第3章】もつれた糸理論

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■講演録4.生活保障の新しい作法 保健・医療・福祉を包含する生活モデル
 猪飼 周平 氏

・医者の施設のほうに患者がやってくる流れが2000年ごろから、大まかに言うと世紀転換期ごろから、今度は医者のほうがまた患家のほうに訪ねていくという方向に向かって、大きな転換をしている p93
・時代をさかのぼればさかのぼるほど往診率が高い(中略)病気で動けない患者がいて、元気な医者がいる。どちらがどちら側に行くかということを考えたときに、元気な医者のほうが病人のほうに行くべきだろうという時代が、かつてもちろん存在していた p93

・「地域包括ケア」という言葉を考えたときに、「地域ケア化」と「包括ケア化」に分類して考えなくてはいけなくて p94
・人間のQOLは究極的には分からない(中略)人間の暮らしというのは非常に個別的で
多様(中略)貧困といっても、個人個人で貧困のあり方はものすごく違っている p94

・社会保障モデルから生活モデルへ p95
・生活が破綻するリスクというのは、どのような人でもなくならない p95
・この世界に人間が8人いて、生活問題が8つあるという、単純化されたモデルを考えてみましょう p95 + p102-103の図表29-33

・社会保障モデルというのは、やればやるほど歩留まりが悪くなっていく性質を持っていて、生活モデルというものは、それに対して1人ひとり支援をしていきますので、能率は悪くはならない p95

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 p102-103の図表29-33は必見です。前後の文章を読まずに図表だけだと伝わりにくいかもしれませんが、シンプルに「リボン理論」と呼ばれる仕組みが解説されていまして、わかりやすいです。

 この域に達しているのは成熟社会である証ではないでしょうか。横断的な保障で解決できるケースが減ってきているんです。現時点で個別性の高いサービスを提供しているのが医療であり介護でしょう。これがもっと福祉に手厚くならないといけない。ということは、そのサービスの中心である公務員さんを増やさないといけないし、手厚く迎え入れないといけない。その職業(収入)の安定性・長期性が担保できれば、需要(消費)にもつながるように思います。


 「社会保障モデル」と「生活モデル」を読んで気づけたのは、ファイナンシャルプランナー(FP)でいうと講師専門の方々は広く多くの方々を対象にした社会保障モデル、私のように相談を中心とした対応は生活モデルだなと感じました。

 どちらが良いとか悪いではなく、社会にはどちらも必要です。多くの人が関係するような、いわば一般的な情報は講演を受講すること(社会保障モデル)で解決するでしょう。でも、その情報に個別性・事情性が加味されていくと、一人ひとりと向き合う相談(生活モデル)でなければ解決が難しくなります。


 この報告書を読めば読むほどに、感想記事をまとめればまとめるほどに、社会を理解するうえでの大前提や基礎知識を知ることの重要性を痛感します。

 <次回> 講演録5.今後の超高齢・少子社会と医療・社会保障の財源選択 ―『地域包括ケアと福祉改革』序章をベースにして


社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録3】経済と社会保障は表裏一体


 2018年4月に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成28・29年度版「社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~」を読みました。

 前回、第9回目の記事はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録2】頼りあえる社会


 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ(笑)読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

 講演録3番手の香取大使の報告書はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第1章】相矛盾する国民の意識

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■講演録3.全体連関のなかでの社会保障
 香取 照幸 氏

・「幸せな家庭は皆一様に幸せだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」というせりふです。つまり問題を抱えたり不幸なことがある家庭は、その家庭の数だけ不幸の形がある。私たちはそういうきわめて個別性の高い人たちを相手にものを考えなければいけない p81
・社会保障制度の議論をするときに、社会保障の議論だけをしていても、おそらく答えは見つけられない p81

・社会保障は単に弱者救済というものではなくて、社会全体としてのリスクを低減するもの、いわばリスクヘッジをする仕掛けで、これをより個別に見ていけば、1人ひとりの人間が自分の能力や自分の可能性を最大限に発揮できるような条件を作っていく。人間がそのための知恵として作り出したものが社会保障 p82
・医療についても年金についてもそうですが、これは人間が考えたものです。知恵で作ったものです。頭で考えて作ったものです。おそらく人類が発明した最も知的で、かつ合理的で科学的なシステム p82

・この国はみんな同じ顔をして、同じ言葉を話して、同じものを食べて、同じ文化で同じことをやっていますから、社会というものは当たり前に存在していて、当たり前に統合されているものだと考えていますが、このような国は世界中ほとんどない p82

・この国の社会・経済の問題をどう解決していくかということと、社会保障の課題をどう解決していくかということは、表裏の関係にある p83
・負担というのは理屈ではなくて納得ですから、「理屈では分かるけれども、おまえに言われたら嫌なんだよね」というのはいくらでもあります。やはり合意ということが大事なので、これは政治の能力というか力というか信頼というか、そういうことだと思います p85

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 現代社会・成熟社会だからこそ人(他人)と自分を比べ易く、人の得を許しにくい論調も出てきてしまうのだと思います。得と言っても、社会保障という制度上で助けが必要な状況にあるからこそ得られるものですから実際には得と呼べるものではないはずなんです。でも、自分がその恩恵を受けていないので、得に見えてしまうのだと思います。

 これをなくすにはみんなが目に見えて恩恵を受けなければいけない。これは【講演録2】頼りあえる社会の内容が解決策になってくるのでしょう。


 消費税が10%になる10月に向けて、消費税に関する論調が多く出てくることでしょう。現状は増税分の使い道として保育料のことはわかっていますが、これも3~5歳児の無償化ではなく人件費を含めた環境整備と充実が先だという話も出ていますし、他には明らかに社会保障の充実とはなっておらず高齢者向けに増える負担に充当されるだけであったり、そもそも軽減税率・ポイント付与・プレミアム商品券など愚の骨頂とも言える策により、実質の税収がどれだけ増えるのかフタを開けてみないとよくわからない状況のように感じます。

 義務教育で社会保障をまっとうに学ぶ機会、これも同時進行で議論が進んでもらいたいと切に願います。


 <次回> 講演録4.生活保障の新しい作法 保健・医療・福祉を包含する生活モデル


社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録2】頼りあえる社会


 2018年4月に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成28・29年度版「社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~」を読みました。

 前回、第8回目の記事はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録1】成熟社会を理解する


 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ(笑)読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

 前回から講演録です。2番手の井出教授の報告書はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第4章】対人社会サービス

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■講演録2.分断社会を終わらせる~「頼りあえる社会」のための財政改革~
 井出 英策 氏

・1997〜98年に日本経済が大転換(図表3) p69

・アメリカ、イギリス、日本は、アングロサクソンモデル、つまり小さな政府モデルです。基本的な生活は自己責任で、限定的に貧しい人たちの生活を政府が保障する社会では、人々の生活水準が落ちていくときに、低所得層や移民に対する反発が非常に強まります。なぜならば自分たちが負担者であり、低所得層や移民が受益者になっていますので、その人たちを批判すること、叩くことが政治的に意味を持つようになります。だからこそ、そういった国々ではポピュリズムが機能する p71

・「再分配の罠」(中略)私たちの常識で言うと、困っている人を助ければ格差は小さくなるはずなのですが、困っている人を助けている社会は、むしろ相対的貧困率は高く出てしまうわけです。逆にみんながもらっているほうが、相対的貧困率は低く出る p71

・医療であれ、教育であれ、住宅であれ、子育てであれ、介護であれ、これはすべてサービスだということ(中略)あらゆる人々を受益者にしてはどうか。つまり所得制限をつけずに、すべての人を受益者にしたらどうなるのかという提案 p72
・貧しい人が納税者になり、富裕層が受益者になったとしてもなお、格差を小さくすることは可能 p73

・生活保護はなくなるのがいちばん理想的だと思っています。なぜならば、お金を人にあげるという行為は、人間を疑心暗鬼にします。つまり不正受給に対する疑念を生む p74
・社会的弱者のレッテルを張られ、恥ずかしい思いをして救済してもらうというモデルではなく、人々の生活をサービスで保障していくことによって、だれもが当然の権利としてサービスを利用する p75

・これまでのように、困っている人を助け所得を公平にするのではなく、あらゆる人々がサービスの受益者になり、堂々とその権利を行使することのできるような、いわば人間の尊厳を公平化するようなモデルを目指していくべきではないか p75
・「救済型の再分配」「共生型の再分配」 p75

・あらゆる人々が受益者になるからこそ、税を払う。みんなにとって必要なものだからこそ、みんなが税を払う。これが基本ではないのか p76
・人生のなかで極端にお金がかかる山が4つぐらいあると思うのです。そのときに備えて人々は貯蓄をし、そして消費を手控えているというのが今の状況 p76

・目的は将来不安をなくすことであって、成長は手段にすぎない(中略)この成長を手段から分配に置き換えようということです。分配の仕方を作り変えていくことによって、将来不安をなくす。そしてそのことが、結果的に経済成長も導いていくのではないのかと p79

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 引用の最後から2つめの部分がすべてだと思います。原文のp76は全文必読と言い切りたいです。

 例えば子どもの教育費が保育園/幼稚園・小学校・中学校・高校・大学すべて無償(もしくは最低限の一律負担)であるなら、親である比較的若い世代は将来の教育費に大きな負担を感じることなく、今の消費(需要)にお金をまわせます。「頼りあえる社会」です。
 例えば高齢になってからの医療や介護がすべて無償(もしくは最低限の一律負担)であるなら、将来に大きなお金の不安を持ちにくくなり過剰な貯蓄にならず、今の消費(需要)にお金をまわせます。「頼りあえる社会」です。

 その代わりに消費税がもっと高くなったりするわけですが(講演録では例として15%)、個人的には何も問題を感じません。
 医療・介護・教育(保育)などの対人社会サービスが拡充されることで雇用が生まれます。この視点も大事です。


 教育でいえば公立と私立、介護における老人ホームでいえばその施設の差など、比べ始めればきりがありません。現時点で公平性が高いと考えられる消費税が上がったとしても、社会における基本サービスが無償(もしくは最低限の一律負担)となることが大きな分配(需要)の仕組みであると理解できます。

 <次回> 講演録3.全体連関のなかでの社会保障