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【社会保障ワークシート】社会保障の教育推進に関する検討会報告書


 厚生労働省webサイトで紹介されている「社会保障の教育推進に関する検討会報告書 ~生徒たちが社会保障を正しく理解するために~」(2014年7月18日)を読みました。これまで全7回で取り上げてきました社会保障ワークシートに関するまとめの報告書です。

 私は常々「投資教育・金融教育よりも社会保障教育を」と発信しています。難易度が高いとはいえ、義務教育の教科書に”ちょっと気になる社会保障 V3”が採用されてほしいと思うほどです(リンク先は増補版の感想記事)


 勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

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■検討事項と検討体制

・卒業後すぐに社会保障制度に触れることが考えられる高校生を対象として検討 p2

■検討結果

・社会保障は、「世の中の常識」と「実際」の間の乖離度合いが大きい。「天動説」と「地動説」くらいのレベルの違いがある p3
・社会保障の授業に充てることができる授業時間数は3年間を通して2コマもしくは3コマ程度 p5
・制度の内容や課題については教師も詳しく知らない場合が多い。中学校・高等学校で社会保障について学んだ時間が少なかったという大学生や大人が多い p5

・制度的な点よりも、社会保障制度が誕生してきた歴史的経緯、その制度が基礎に
置いている「助け合い」「連帯」(中略)など、社会保障制度を支える考え方を生徒に学んでもらうことが、社会保障制度を、ひいては社会を正しく理解できる大人になることに資するという意見が大勢 p7
・公的年金制度のように景気変動に関わりなく継続的に現金を支給することにより、個人消費を促進し、景気変動を緩和するとともに経済成長を支える機能(経済安定化機能)も果たしている p7
・社会保障の理念・人生を生きていく上では様々なリスクがあること・やむを得ない理由で様々な助けを必要としている人々がいること・誰もが助けを必要とする状態になる可能性があること p8

・学習指導要領改訂に向けての提言 p16~
・かつては家族の中で、働く世代の人たちは子どもを扶養し、そして年老いた親を扶養していたが、そうした家族の中での扶養を社会全体での支え合いに広げたものが社会保障である p17
・社会保険が「防貧」機能を有しているのに対して、公的扶助が「救貧」機能を有している p18
・社会保障制度の改革も進められているが、将来の「社会のあり方」や「社会保障の役割」について一人ひとりが考えていく必要がある p18
・社会保障教育の推進のためには、教材を作成するだけではなく、教師が授業で活用しやすくなるような工夫も必要 p19

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 これまでのワークシートは私もどこかで社会保障のことをお話しする機会があれば使ってみたいと思えるものでした。
 p9に掲載されている教師・生徒の感想はぜひ多くの人に読んでもらいたいです。


 なぜ私がしつこいくらいに公的年金保険をはじめとした社会保障について取り上げてばかりいるのか。
 それは、この国で生活しお金のことを考えるうえで何においても根幹となる部分だからです。

 学べば学ぶほどに社会保障のことを知らずして家計のこと、資産運用のこと、生命保険のこと、住宅購入のこと、相続のこと、他もすべて考えられるわけがないとさえ思ってしまいます。

 すべての土台である公的な仕組みを適切に知り、次に自分や家族の働き方や現状の資産状況を確認し、最後に現状からの見直しや新規の検討の段階へ進むんです。土台や現状を把握しないままに、解決策や最適が出てくるわけがありません。


 結論はシンプルでも、過程はシンプルではありません。シンプルな結論に至るまでが大変です。
 私を含めた普通の個人・普通の家庭において長期に渡って有効が約束されている裏技はありませんし、特定の専門家が長期に渡って助けてくれないと依頼者・相談者が困ってしまう結論も稀です。家族を含む身近な人に説明の難しい金融商品を使うことが最適になるケースはほとんどありません。

 まずは公的な仕組みを押さえましょう。
 こんな私ですけれど、皆さま今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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 これまでの記録はこちら。

・第1回 【基礎】社会保障の理念やあり方を考える
 ワークシートは高校生向けで教員向けの指導者向け活用マニュアルもあり、「所得の再分配機能」の給付と負担の考え方を知ることができます。高校生でこんなふうに学べる機会があるなら最高です。

・第2回 【基礎】身近な社会保障を学んでいく
 配付版p3「ライフサイクルでみた社会保障の給付と負担のイメージ」とp5「高校生として必ずおさえておきたい“公的年金のメリット”」この2つの資料は最高でした。

・第3回 【基礎】年金教材『10個の「10分間講座」』
 タイトルに「高校生が最低限、今のうちから知っておくべき」と入っていますが、大人こそ学ぶ必要があるでしょう。

・第4回 【発展】社会保障って何?
 「公助・共助・自助」「救貧・防貧」「社会保障制度は所得の再分配機能」超重要キーワードの登場する内容です。これを高校生で学べる機会があるなら素晴らしすぎます。

・第5回 【発展】政府の役割と社会保障
 公的年金保険の積立方式論破から所得再分配・給付の権利性・ミーンズテスト・スティグマまで登場し、公的年金保険の世代間不公平という的外れなあおりについての正しい理解まで解説がありました。

・第6回 【発展】公的医療保険って何だろう?
 設例があったうえでの計10個の質問。社会保障(今回でいえば公的医療保険)の仕組みを学ぶ機会のなかった大部分の大人・社会人こそ、しっかり読んで考えてもらいたい内容です。

・第7回 【発展】公的年金
 「Output is central(生産物こそ重要)」や「適用拡大」という用語までは登場していませんが、考え方は出てきます。多くの高校生がここまで学ぶことができるようになるなら未来は明るいです。


 繰り返します。”ちょっと気になる社会保障 V3”(リンク先は増補版の感想記事)、この本は義務教育の教科書に採用されてほしいと思えるほどの内容ですが、間違いなく難易度が高めです。難しいと感じられる場合には今回の7つのワークシートが良いです。それほどにすばらしい内容でした。

 私は義務教育におけるまっとうな社会保障教育が強く必要だというスタンスです。
 長文をお読みくださり、ありがとうございました。



社会保障ワークシート【発展】公的年金


 厚生労働省webサイトで紹介されている社会保障ワークシートを読みました。

 私は常々「投資教育・金融教育よりも社会保障教育を」と発信しています。難易度が高いとはいえ、義務教育の教科書に”ちょっと気になる社会保障 V3”が採用されてほしいと思うほどです(リンク先は増補版の感想記事)

 前回、第6回目の記事はこちら。
 社会保障教育のワークシート【発展】公的医療保険って何だろう?


 7種類のワークシートを順に取り上げる第7回目です。本当は今回が最終回ですが、追加1回あります。この記事の最後で告知しています。
 私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。主には「指導者向け活用マニュアル」の文章を紹介しています。

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■ワークシート【発展】公的年金

・個々人の老後の生活設計だけでなく、国の社会経済にも大きな影響を与える公的年金制度は、その国の社会・生活に対する価値観を反映したもの p1
・指導者も自説を押しつけることなく、ともに議論を深めるようなスタンスで取り組んでいただくようお願いします p1
・この教材を通じた学習が、公的年金のあり方や、保険料を納める意味、少子高齢化への対応などについて、自ら考えるきっかけとなり、社会の一員としての自覚を身につけることにつながれば、大きな学習の成果であると考えられます p1


1.公的年金制度は、なんのためにあるんだろう?

・(もしも公的年金がなければ)収入のない親の面倒をみるために転職や引っ越しも必要になる場合もある p2
・もしも公的年金がなければ、おじいちゃん・おばあちゃんの生活が困るだけでなく、自分たち若者も、親世代を養わないといけなくなる p3
・「公的年金」も「子どもからの仕送り」もなければ、働いている間に老後に必要な生活費を貯蓄しなければならない p3

・現代は、都市で会社勤めをして親と別居する人が多くなり、平均寿命も長くなったため、親を養うための費用が大きくなっている。また、産業化により、親のもつ生産手段に縛られずに仕事をする者も多くなってきている。こういった社会の変化の中で、「個々人で親を支える」ということが難しくなってきたため、「社会全体で高齢者を支える」公的年金制度が整備されてきた p5


2.「私たちの世代」の公的年金を考えよう

・公的年金は、長生きしたり、障害を負ったりする「リスク」に備えるもので、そもそも「損得」で考えるものじゃない p6
・たとえば、長生きしたり、障害にあったりした場合は、生涯受け取る年金額は多くなるが、これが果たして「得」と言えるだろうか考えてみるのもよい p7
・「少子高齢化の中での公的年金の負担と給付のあり方」について、「公的年金ではなく自分で親を養う場合」と比較して考えてみる p9


<ファクトシート>

①3. 公的年金の負担と給付

・「基礎年金の半分は税金から払われます。また、厚生年金の保険料は半分事業主が払います。このように、公的年金は決して“損”なものではありません。保険料を納めず、免除制度も利用していない場合、将来公的年金がもらえなくなって生活に困るだけではなく、税金に見合う給付分さえももらえないことにもなることを知っておきましょう


②5.少子高齢化への対応

・仮に公的年金がないとしても同様のことが起こります
・経済が成長し、現役世代の所得が上がれば、お年寄りの年金額も増えることになります
・多くの人が元気に働ける社会を作れば、公的年金制度という支え合いの輪に参加して、支えてくれる人が増えます


③6.高校生として必ずおさえておきたい公的年金の基礎知識

・公的年金制度があることで、社会が安定する。高齢者が安定した消費者となることで、経済を支えている

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 公的年金保険のことは第3回【基礎】年金教材『10個の「10分間講座」』が接しやすい切り口(Q&A)ですし、もっと深く公的年金保険を含めた社会保障を知れるのは第5回【発展】政府の役割と社会保障です。今回(第7回目)は社会保障としての公的年金保険を突き詰めることのできるパートといえます。
 
 配布版1枚目と2枚目で計16個のワーク、配布版の3~5枚目は7つの項目分けのある参考資料(ファクトシート)という構成です。
 賦課(ふか)方式の何たるかがしっかり解説されていますし、受給額は保険料と税が合わさっていることの意味にも接します。「Output is central(生産物こそ重要)」や「適用拡大」という用語までは登場していませんが、考え方は出てきます。多くの高校生がここまで学ぶことができるようになるなら未来は明るいです。

 「家族をめぐる代表的な変化」(配布版1枚目)として1960年(昔)と2005年(現代)における三世代同居世帯数・高齢者単身世帯数・家族の人数(平均)・平均寿命・サラリーマンの割合といった比較データで時代の流れを知り、「結局、保険料を払っても、将来、公的年金は受け取れないんでしょ。 保険料を払っても、損をするんじゃない?」(配布版2枚目)という、若い世代にありがちな誤解もしっかり取り上げてあり、しっかり正しい仕組みを知ることができます。


 僭越ながら私もここまでの本質を系統立てて学ぶ機会になったのは権丈先生の本です。それまでは制度を知っているだけで全体像・本質をつかめていなかったんです。なので、社会人でも知らない人がほとんどだと思います。
 仮に今回の内容を高校生から学ぶことが必須になれば、その学んだ(若い)世代と学んでいない(年齢が上の)世代で驚くほど大きな壁ができてしまいます。学んだ世代の多くは公的年金保険をはじめとした社会保障の何たるかを何となくつかめています。この「何となく」がめちゃめちゃ大事で、意味のない、デマ・詐欺と呼べるようなあおり記事・あおり報道に今ほど多くの人が惑わされることもなくなるでしょう。だからこそ今回の内容も、大人こそ、社会人こそ学んでおきたい内容と言えます。

 制度の細かな部分は年数が経てば変わっていきます。ワークシートでも細かな内容を学ぶ構成とはなっていません。それで十分すぎるんです。超重要な社会保障の何たるかをデータも交えて高校生で知ることができるなんてすばらしすぎます。

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 注文をつけるとすれば次の3点です。

・前回の公的医療保険とあわせて、公的年金保険の記載をせめて見出しだけでも使ってもらいたかったです。年金ではなく、公的年金で統一されているとはいえ、ワークシートで27回、ファクトシートでも27回、5枚で計54回も出てくる用語です。公的な「保険」であることを強く印象付けてもらいたかったです。

・毎年とは言いませんが、数年に1回はデータを更新してもらいたいです。平均寿命/平均余命・国民年金保険料の納付状況・国民生活基礎調査などが2010-2013年の情報です。

・「公的年金制度は現役世代が負担した保険料や税などを高齢世代に分配しているに過ぎない仕組みであり、少子高齢化が進むと制度がもたないといったものではない。少子高齢化の下で、いかにして支え手を増やし、支えられる者を減らしていくのか、様々な取り組みを行っていくことが大切」 p9
 この文章は権丈先生の手が離れてから付け加えられたのかと感じてしまいました。
 公的年金保険制度は老齢給付(老齢年金)だけではないのはこの発展編でもしっかり取り上げられているにもかかわらず、「現役世代が負担した保険料や税などを高齢世代に分配しているに過ぎない」と書かれています。おかしいです。公的年金保険の受給者は高齢者だけではありません。公的年金保険の老齢給付・障害給付・遺族給付は原則的に就業者から非就業者への分配です。

 また、「いかにして支え手を増やし、支えられる者を減らしていくのか」この文章をきちんと理解できる人(教員)はどれくらいおられるでしょうか。今の支え手(就業者)が増える=支え手が給付を受ける将来の受給額が増える=自分たちで自立して生活していける人が増える=支えられる者を減らす、この意味の文章です。皆さま、いかがでしょうか。そして、これを1つの表現を用いるなら「適用拡大」です。こちらの記事もご参照ください。
 <過去参照記事> 適用拡大は「一石七鳥」の年金政策 / 第15回年金部会「社会保障審議会年金部会における議論の整理」を巡って

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 第7回目として取り上げましたのは社会保障教育ワークシート【発展】公的年金です。

 私は義務教育におけるまっとうな社会保障教育が強く必要だというスタンスです。

 <次回> 社会保障の教育推進に関する検討会報告書 ~生徒たちが社会保障を正しく理解するために~


社会保障ワークシート【発展】公的医療保険って何だろう?


 厚生労働省webサイトで紹介されている社会保障ワークシートを読みました。

 私は常々「投資教育・金融教育よりも社会保障教育を」と発信しています。難易度が高いとはいえ、義務教育の教科書に”ちょっと気になる社会保障 V3”が採用されてほしいと思うほどです(リンク先は増補版の感想記事)

 前回、第5回目の記事はこちら。
 社会保障教育のワークシート【発展】政府の役割と社会保障


 7種類のワークシートを順に取り上げる第6回目です。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。主には「指導者向け活用マニュアル」の文章を紹介しています。

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■ワークシート【発展】公的医療保険って何だろう?

・「公的な医療保険制度がなぜ必要なのか」をテーマに、幅広い議論が展開できるように作成 p1
・指導者も自説を押しつけることなく、ともに議論を深めるようなスタンスで取り組んでいただくようお願いします p1
・社会保障制度の意義や社会の仕組みなどに関する基本的な考え方を養うことができれば、大きな学習の成果であると考えられます p1


1.知ってる?日本の医療保険

・正確な解答は必要ない p3
・病院にかかった際に領収書を確認すると、いくら分の医療サービスを受けて、いくら負担したのかが分かる p3
・自治体によっては、子どもの医療費負担をさらに軽減するために財政支出をしている p3


2.公的医療保険の意義とは

・リスクに応じて保険料を変えたり、加入制限を設けることは、利益を追求する民間会社では当然のことであり、市場経済原理が展開された素直な姿であることを理解させる p5
・この設問の設定のような社会は、いわゆる「格差社会」につながるものということを認識させる p5
・ここまでの流れを認識させた上で、「こういう社会をどう思うか」など問いかける。様々な意見があってよいが、次の設問に移る上では「こんなに弱者に厳しい社会は大変だ」という見方があるとよい p5
・「弱者に優しい」という特徴を持った会社が、市場経済原理に任せた社会の中で、どのような経過をたどるかを考えさせることを通じて、公的な制度の役割を認識させる p7
・「民間の会社では公的部門と同様の役割を果たすことは難しい」という事実を認識させる p7
・世界でもさまざまな考え方があり、各国により制度は異なっていることに留意 p8
・結果として、「格差社会」ではなく、お互いに支え合う「全員参加型社会」に近づく p8
・公的な制度だからこそ所得再分配の機能を組み込み、社会的弱者を排除せず、皆で支え合う仕組みができる p9
・医療保険制度は一人ひとりの生活の安定に資するとともに、社会全体の安定を支えているという側面もある p9
・これらを理解した上で、これからの社会や、それを支える制度がどうあるべきかを考えることができるようになることが望ましい p9


<ファクトシート>

1. 「生涯にかかる医療費はいくら?」

・「貯金しておけばいいんじゃないの?」という考えに対しては p11
・自分が大きな病気やケガに見舞われるかどうか、そしてそれがいつか、ということは誰にも分かりません。もちろん、全ての人に貯金を義務付けることも困難 p11


2.「医療保険制度の負担のイメージ(サラリーマンの場合)」


3. 「日本とアメリカの医療保険の違い」

・社会保障制度は、その国・その社会の価値観を反映する、という側面があることを理解する p15


4.「日本とアメリカの医療費比較」

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【発展】には第4回・第5回も含めて、「指導者も自説を押しつけることなく、ともに議論を深めるようなスタンスで取り組んでいただくようお願いします」(p1)とあります。
 学校の先生方(ここでは高校の公民科の教員)は社会保障の専門家ではありません。教員自身も社会保障をしっかり学んでいるケースはほとんどないわけですから、深くまで詳細を理解できていなくて当然です。となると一般の人と同じで報道で目にする情報で印象を持ってしまっているケースもあって当然です。なのでこの文章はとても大事です。

 生徒への配布1枚目(リンク先「ワークシート・ファクトシート」)の設例があったうえでの計10個の質問。他の回と同じことを書くことになってしまいますが、社会保障(今回でいえば公的医療保険)の仕組みを学ぶ機会のなかった大部分の大人・社会人こそ、しっかり読んで考えてもらいたい内容です。


 公的年金保険だけが高齢者や社会的に支えの必要な方々(いわゆる社会的弱者)を支える仕組みではありません。今回の公的医療保険だけが社会保障というわけでもありません。1つを議論するためには他の仕組みとの兼ね合い・整合性・バランスが重要ですので、切り貼りされた報道に一喜一憂することなく、あおられることなく社会保障の本来の役割を認識しておきたいものです。

 今の医療の仕組みが最適でベストで何も問題がないというわけではありません。公的医療保険についてさらに深く知ってみたいという場合には(感想は書けていませんが)権丈先生のこちらの本が超絶にお勧めです。

 

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 注文をつけるとすれば次の3点です。

・活用マニュアルp9「各国の医療制度の例」で英国(イギリス)は「医療は国の制度として原則無料で提供(保険制度ではない)」とだけ情報提供があります。全額税でまかなわれていることのメリット・デメリットの情報を加えてもらいたいです。日本の仕組みより優位に見えるだけなのはよろしくないです。(医師に診察してもらえるまで相当な日数かかるなど聞いたことがありますが、実際に私が直接入手した情報ではありませんので控えます)

・毎年とは言いませんが、数年に1回はデータを更新してもらいたいです。国民医療費・健康保険料率・人口や米国の医療制度などが2011-2012年の情報です。

・高額療養費の仕組みも2015年以降区分が増えています。「一般的な所得」より低かった場合には負担がさらに小さくなっている情報も大事だと思っています。

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 第6回目として取り上げましたのは社会保障教育ワークシート【発展】社会保障って何?です。

 私は義務教育におけるまっとうな社会保障教育が強く必要だというスタンスです。

 <次回> 社会保障ワークシート【発展】公的年金


社会保障教育のワークシート【発展】政府の役割と社会保障


 厚生労働省webサイトで紹介されている社会保障ワークシートを読みました。

 私は常々「投資教育・金融教育よりも社会保障教育を」と発信しています。難易度が高いとはいえ、義務教育の教科書に”ちょっと気になる社会保障 V3”が採用されてほしいと思うほどです(リンク先は増補版の感想記事)

 前回、第4回目の記事はこちら。
 社会保障教育のワークシート【発展】社会保障って何?


 7種類のワークシートを順に取り上げる第5回目です。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。主には「指導者向け活用マニュアル」の文章を紹介しています。

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■ワークシート【発展】政府の役割と社会保障

・政府の果たしている役割を大づかみで理解した上で、その中の「社会保障」をテーマに、幅広い議論が展開できるように作成 p1
・政府や社会保障制度の意義、税や社会保険料の意味・違いなどについて自ら考えるきっかけとなり、社会の一員としての自覚を身に付けることにつながれば、大きな成果であると考えられます p1


1.政府の役割

・政府が役割を果たしていくためには、財政の問題が不可分であることを理解させる p3
・政府が財政を通じて果たしている3つの機能 p3
 所得再分配・資源配分(公共財)・経済安定化


2.社会保障の役割

・(公的年金保険について)「若い世代の負担ではなく、最初から自分で積み立てて老後にもらえる仕組みにすればいい」という意見が出た場合は、これまで高齢世代を支えるために負担してきた現在の勤労世代は、自分の年金を積み立てている訳ではないので、その人たちが高齢世代になったときの年金の負担をどうするかという問題も出てくるなど、長期的な視点で年金をどう支えていくのか、「世代間の公平」の問題も含めて、国民みんなで考えることが必要ということを説明 p6


3.税や社会保険料について知ろう

・税に比べるとなじみが薄いと思われる「社会保険料」について、基本的知識を身につける p9


4.社会保険料と税の違いとは

・社会保険料と税の違いについて考えさせ、社会保障のサービスを行っていく上で、税と比べて社会保険の優れた特徴である「給付の権利性」について理解させる p11
・税の使途として、公平性・効率性を担保する観点から、給付に際して、所得制限や資産調査(ミーンズテスト)による受給者の限定が行われやすい。結果、社会福祉制度の利用に際して、恥辱感(スティグマ)が付きまとうこととなるため、制度を利用すべき人が利用を控える事態が発生しやすい p11


<政府の役割と社会保障に関するファクトシート = 正確な議論のために>

3. ライフサイクルでみた社会保障の給付と負担のイメージ

・社会保障は遠い将来のことではなく、一生を通じて深く関わっている p19
・持続可能な社会保障制度を構築するために、「社会保障と税の一体改革」が進められている。具体的には、年金、医療、介護など既存の仕組みにも手を加えつつ、子育て支援を中心とする若者世代への給付を手厚くすることや、高齢者にも応分の負担をしてもらうために税制や保険料、利用者負担のあり方を見直すなど、幅広い視点での改革が検討されている p19


4. 統計でみた平均的なライフサイクル

・例えば、年金などでは「世代間の不公平」として、現在の高齢者が過去に支払った保険料・給付の水準と、現在の現役世代が支払う保険料・給付の水準の違いを比較する議論があるが、その際は、年金制度による「社会的な扶養」の側面のみを見るのではなく、現在の高齢者の世代は、社会保障が充実していく前の「私的な扶養」によって、その当時の高齢者を支える役割を果たしてきていた側面にも留意が必要 p21

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 いやー、【発展】はすごいですね。

 公的年金保険の積立方式論破から、所得再分配・給付の権利性・ミーンズテスト・スティグマまで登場し、メディアでもまだまだ登場する公的年金保険の世代間不公平という的外れなあおりについての正しい理解まで解説があります。

 最終7回目の後に番外編として取り上げる予定だった内容に権丈先生のお名前が出てきますのでそこまで伏せておこうと思いましたけれど、今回の活用マニュアルからはひしひしと権丈先生の存在を感じさせられ、もうお名前を書かざるを得ません。同時に、すばらしい内容を高校で学べるように準備されているのだと改めて気づかされました。

 高校在学中にこの教材で学ぶことができている生徒は何割(何%)くらいいるのでしょうか…。勝手ながらそこまで高い比率とは思いにくいので、これらのテキストを使って大人こそ学ぶ必要があります。


 配布2枚目の「政府の役割と社会保障に関するファクトシート = 正確な議論のために」として「3.ライフサイクルでみた社会保障の給付と負担のイメージ」は第2回目「【基礎】身近な社会保障を学んでいく」と同じ資料が使われています。この資料、良いです。(高校の授業だと配布は白黒かもしれません。先生方におかれましてはこの資料はカラーでお願いしたいです)

 そして、「4. 統計でみた平均的なライフサイクル」も良い資料であり、たいせつな視点です。大正時代に「60歳で夫引退」という線引きがあったのかどうかはわかりませんが、イメージは大事です。時代が変わっているんです。

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 注文をつけるとすれば次の4点です。

・配布版p1左側下「社会保障の役割」の資料で、あえて国民年金に限定しているのはなぜなのでしょうか。
 ここを国民年金に限定せず厚生年金も加えれば、被保険者の説明として「20~59歳の国民」に限定することなく、70歳までの会社員を入れることができるので、公的年金保険の被保険者は「現役世代」ではなく「就業者」のイメージを持ってもらいやすくなると感じました。

・配布版p1右側上「税や社会保険料について知ろう」の解説で、p9では「年金と医療という代表的な社会保険制度」とされている続きで、医療には「医療保険」と必ず「保険」が付けられています。反対に年金は「年金保険」「公的年金保険」とならず、すべて「年金」だけです。第4回目「【発展】社会保障って何?」の配布資料と同じく他の社会保険との一覧表であればせめて「年金保険」と記載をお願いしたいです。保険なんです。

・統計でみた平均的なライフサイクル(配布版p2右側下)
 1920年・1961年・2009年の例について、女性の年齢を基準にした比較資料を見てみたいと思いました。自分で作ろうかと思いましたが、excelでもややこしそうでとりあえず諦めました(すみません

・毎年とは言いませんが、数年に1回はデータを更新してもらいたいです。国の一般会計や社会保障給付費の全体像は2012年度、公的年金保険の制度改革として挙げられいる情報が2004年でした。

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 第5回目として取り上げましたのは社会保障教育ワークシート【発展】社会保障って何?です。

 私は義務教育におけるまっとうな社会保障教育が強く必要だというスタンスです。

 <次回> 社会保障ワークシート【発展】公的医療保険って何だろう?


社会保障教育のワークシート【発展】社会保障って何?


 厚生労働省webサイトで紹介されている社会保障ワークシートを読みました。

 私は常々「投資教育・金融教育よりも社会保障教育を」と発信しています。難易度が高いとはいえ、義務教育の教科書に”ちょっと気になる社会保障 V3”が採用されてほしいと思うほどです(リンク先は増補版の感想記事)

 前回、第3回目の記事はこちら。
 社会保障教育のワークシート【基礎】年金教材『10個の「10分間講座」』


 7種類のワークシートを順に取り上げる第4回目です。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。主には「指導者向け活用マニュアル」の文章を紹介しています。

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■ワークシート【発展】社会保障って何?

・この教材は「社会保障制度を理解するための見方や考え方」について、幅広い議論が展開できるように作成 p1


1.「自立」について考えてみよう!

・生活していくこと、やりくりの厳しさを理解させる p3
・厳密にやる必要はなく、やりくりの厳しさが実感できれば良い p3
・自分の努力だけではどうにもならないリスクの存在に気付き、社会保障制度の必要性を理解させる p5
・「貯金を取り崩す」「親から借りる」等の回答も予想されるが、「貯金がなかったら?」「親を頼れなかったら?」と問いかけ、考えさせる p5
・様々な理由で「自立が困難な場合もあること」を認識する p5
・「自己責任」等の回答が出た場合は、その状態を放置すると社会がどうなるかを考えさせる p5
・個人の力だけでは備えることに限界がある生活上のリスク(病気、けが、老齢、失業、死亡など)に対して、社会全体でセーフティネットを作り支えようとする仕組みが社会保障制度 p5


2.「自立」を支援する社会保障制度

・「自助」「共助」「公助」の違いを理解させる p7
・「共助」は(中略)病気やケガ、失業など、貧困に陥る原因となる事故に対してあらかじめ備えて生活が困難な状態にならないようにしており、人々が貧困に陥ることを防ぐ「防貧」の働き p7
・「公助」は、生活に困窮する人々に対して受給要件を定めた上で必要な生活保障を税金を財源として給付する仕組みである。貧困に陥った人を救済するという意味で、「防貧」機能に対して「救貧」の働き p7


3.政策としての社会保障制度

・所得の再分配機能とは、所得を個人や世帯間で移転させることにより、貧富の差を縮小し、国民の生活の安定を図るもの p9
・社会保障が行われない場合 「働かざる者食うべからず」という言葉のように、高齢者や障害者などの弱者が切り捨てられる社会となる p9

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 第2回目「【基礎】身近な社会保障を学んでいく」と同じ「一人暮らしのやりくり」から始まります。

 何のための社会保障なのかを身近に問う流れで、社会に出ていくことを高校生にもイメージさせるために大事なことなのだと感じます。今まさに家族が病気や障がいのような状況にある生徒にとっては大きなインパクトになることでしょう。何も困っていない状況であればイメージが難しいかもしれませんし、大半の生徒は後者の側でしょう。

 そんな中で大事なキーワードは「公助・共助・自助」「救貧・防貧」そして「社会保障制度は所得の再分配機能」です。
 正直に言いまして、私もこの仕事を始めてしばらくたってから知ることのできたキーワードです。ファイナンシャルプランナー(FP)を学んでも出てきません。自分自身で公的年金保険などを深堀して初めて触れることになった内容なんです。
 
 これらのキーワードは大人こそ学ぶ必要があります。高校生のときに学ぶ機会がなかった大人は全員が取り組むべき内容でしょう。

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 注文をつけるとすれば次の5点です。

・高卒または大卒の初任給で自立した一人暮らしのやりくりを考える(配布版p1左側)
 第2回目と同じ内容もあるのですが、「家賃:給料の1/3が目安」「食費:自炊中信で25000円程度」「水道・光熱費:6000~10000円程度」「通信費:3500~10000円程度」「日用品など:5000円程度」「預貯金:10%程度」と、いかにもな数字が並んでいます。「厳密にやる必要はない」という前提があったとしても、ここをいい加減に埋めさせるくらいなら、事前に条件設定してサンプルを見せてしまうのでも問題ないように思います。近い将来の社会が厳しすぎる現実では楽しくないですものね…もちろん楽観が良いとは思っていませんし、さじ加減は難しいとは思います。

・高額療養費制度(配布版p1左側)
 第2回目と同じです。

・3.政策としての社会保障制度(配布版p1右側)
 解説p2で「公的年金制度は社会保険料を主要財源にした、現役世代から高齢世代への仕送りの社会化(再分配)とみることができる」とありますが、厚生労働省から発信されている資料で「現役世代から高齢世代への仕送り」と書くのはよろしくないです。これは資料が何年も前だからでしょうか。
 この論理で言えば、障害年金と遺族年金の説明が難しくなります。障害をおって障害年金を受け取っている人、家族が亡くなり遺族年金を受け取っている人がすべて高齢者ではありません。
 再分配を正しく理解するには「就業者から非就業者への仕送り」と書かれている必要があります。

・1.社会保険の種類と概要(配布版p2左側)
 医療保険・介護保険・雇用保険・労災保険のように「保険」がきちんと書かれているのに、なぜか年金保険ではなく「年金」と書かれています。「年金保険」でお願いしたいですし、「公的年金保険」を推奨したいです。

・毎年とは言いませんが、数年に1回はデータを更新してもらいたいです。初任給のデータは2011年、家計調査データも2012年、国民負担率の国際比較データは2012年度見通しでした。

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 第4回目として取り上げましたのは社会保障教育ワークシート【発展】社会保障って何?です。

 私は義務教育におけるまっとうな社会保障教育が強く必要だというスタンスです。

 <次回> 社会保障ワークシート【発展】政府の役割と社会保障