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社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【講演録1】成熟社会を理解する


 2018年4月に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成28・29年度版「社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~」を読みました。

 前回、第7回目の記事はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第6章】分配なくして成長なし


 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ(笑)読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

 今回から講演録です。1番手の小野教授の報告書はこちら。
 社会保障と国民経済 ~医療・介護の静かなる革命~【第5章】生活の質を豊かにする需要の創出

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■講演録1.成熟社会の経済と処方箋
 小野 善康 氏

・日本経済は90年代初頭に発展途上社会から成熟社会に転換(中略)1980年代までの日本は、発展途上社会でした。そこでは、欲しいのにまだ手に入っていない物がたくさんあった(中略)つまりお金はないけれども、欲しい物がたくさんあったという時代 p58
・現代の日本は(中略)物があふれています。そうなると、お金を稼ぐ目的が、物を買うことよりも金持ちになること、「お金を増やす」ということになってしまった。これこそが成熟社会への転換 p58
・面倒だから何もせず、お金を貯めておく。それで需要が伸びない。だからこそ、政策的な需要創出が必要 p58

・どうしたら人々が物を買うようになるか。そういうときに言われるのは、お金を渡せばいいということです。しかし、お金を渡しても貯めるばかりでお店に行かない。だからこそ不況が続いている。そのため、政府が直接国民にサービスを提供すればよい。たとえば、介護とか医療とか保育とかがいいということになる p60
・もっともっと豊か(金銭的な意味での豊かさではなくて、生活の意味での豊かさ)になるのに、物を買わずにお金ばかり貯めている(中略)金を握りしめながら、けちけちして貧乏に暮らしているわけです。私はそれをやめましょうと、それを言いたいわけです p61

・お金を増やしているのに物価もGDPも増えていかないのは日本だけかと思って調べたら、実は他の先進国もリーマンショック以降すごく似た経路になっている(中略)お金をまけば景気がよくなるというのが世界の常識であるかのように言われていますが、多くの先進国でも全然効いていない p61

・お金を配る政策で1つだけ良いものがあります。それは、富裕層から仕事のない貧困層への再分配です。富裕層はお金があるけど使わない。貧困層はお金がないので使わない。そういう人たちにお金を渡せば、それで何かを買います。このとき、ただお金を渡すのではなくて、仕事を作って、その人たちに働いてもらって、給与で渡すほうがよほどいいわけです p61
・失業者や低所得者には、何らかの形で社会保障費用がかかります。私はそれを社会保障費用ではなく、公共事業をして給料として払った方がいいと言っているのです p62

・お金を配ってもしょうがない。税金をきちんと集めて、その税金を使ってサービスを提供すればみんな幸せになって、雇用も生まれるし、生産効率も上がる。医療はそれを実現する手段として適切 p65
・それには費用がかかり、税収確保のために消費税を上げると、景気が悪くなると反論されます。しかし、何度も強調したように、景気は悪くなりません。日本は大金持ちです。それが長い間お金を貯め続けましたが、消費もGDPも全く増えなかった。そういう状態でさらに大金持ちになっても、消費は増えるはずがない。ということは、お金を少々税金で取ったって消費が変わるわけはないだろう。しかもその税収は、財政支出を通して、再び国民に給与などで支払われる。ですから、景気に悪影響などないのです p65-66

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 小野(先生)節にも慣れてきました。

 議論の中心は所得ではなく資産です。今の日本は所得の多い・少ないで負担が変わってきます。高所得者は高負担、低所得者は低負担、ある程度は理解できます。
 いつも書いていることですが、高所得でも低資産、低所得でも高資産、この場合でも負担は高所得の人にだけ求めるので良いでしょうか。
 では高資産の方々から負担してもらおうとしても、資産にはさまざまな形態が考えらえます。すべて現金・預金や金融商品であればわかりやすいかもしれません。でも、不動産ばかりだったら手放してでも負担してもらう?このあたりのルールはめちゃめちゃ悩ましいです。となれば、みんなが当たり前に日々購入するすべてのものに税がかかっていれば、みんなが等しく負担します。この視点で考えれば軽減税率なんて愚の骨頂です。
 消費税において消費者(負担者)側に節税や脱税はほぼ不可能でしょう。知っていないと損というようなへんてこコンサルビジネスも出てこない。大事だと思います。


 成熟社会においては、医療・介護・保育・教育など公的(に近い)サービスによる雇用の安定化・平均給与のアップ、それに伴う公務員定数を増やすなどが適しているのだと考えさせられます。文章にも書かれている通り「民間製品の代替品」はダメです。公共事業と書くと道路・ダムなどのインフラがイメージしやすいでしょう。維持が見込まれるといっても基本的に作り続ける必要のあるモノではなく、恒常的に必要であるサービスも公共事業として認識され、そのサービスにより雇用が生まれ所得を安定させる。本文を読む限り、良い社会だと私は思えました。

 報告書は5ページ、講演録は7ページで各種データ power point も掲載されています。一読の価値ありです。


 <次回> 講演録2.分断社会を終わらせる~「頼りあえる社会」のための財政改革~