痛みを分かち合う


 最近の公的年金のトピックです。

 改正国民年金法が成立 日本経済新聞 2016/12/14

 いわゆるカジノ法案と一緒に成立したため、詐欺だとか「年金カット法案」だとか書いておられる人やメディアもあります。本当にそうなのでしょうか。


 公的年金の制度設計には、長期的に日本の社会ではインフレがおき(物価が上がり)、賃金も緩やかに上昇していくという前提がありました。これは公的年金に限らず、社会全体でもそうだったと思います。

 いわゆるリーマンショックと旧民主党が政権党だった時代に強いデフレが発生し(物価が下がり)、当たり前に物価や賃金は上がっていかないことも強く認識された時代となりました。


 直近の公的年金では、2004年10月に導入・2005年4月から実施された「マクロ経済スライド」という、物価と賃金が上がったときに受け取る年金額は上げ方を抑えるという仕組みが採用されていました。この上げ方を抑える考え方は出生率と平均寿命の変化が加味されています。

 物価と賃金の上がり方が小さかった時は、受け取る年金額は上げ方を抑える仕組みを適用してもマイナスにはならない仕組みでした。
 さらに、物価や賃金が下がった場合には、出生率と平均寿命の変化の加味を反映せず、物価や賃金より下げないという仕組みでした。

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 こんな例があります。2012年度です。

 物価が0.3%下がり、賃金は1.6%下がりました。
 今までの仕組みでは将来受け取る年金額は物価の下がり方に合わせて0.3%だけ下がりました。
 今回の改正で、この場合には賃金に合わせて将来受け取る年金額は1.6%下がるということになります。それでも出生率と平均寿命の変化は加味されていません。


 もう1つ例を挙げます。2016年度です。

 物価が0.8%上がり、賃金は0.2%下がりました。
 今までの仕組みでは出生率と平均寿命の変化が加味されて将来受け取る年金額は増えないのはもちろんなのですが、減ることはありませんでした。
 今回の改正で、この場合も賃金に合わせて将来受け取る年金額は0.2%下がるということになります。


 確かに「カット」されてしまうケースを増やす仕組みです。でもこれって、賃金が増えずに(減って)苦しんでいる現役世代にあわせて、将来受け取る年金額を減らしますということで、痛みをみんなで分け合いましょうということでしかありません。

 現在の年金受給者世代が受け取っている年金は、現役世代が支払っている保険料です。賦課方式といっていわゆる仕送りなんです。
 仕送り元である現役世代が賃金(収入)が増えないときに、仕送りを受けている高齢世代は同じように受け取りたいというのは、なかなか厳しいものがあると想像しやすいのでしょうか。
 繰り返しになりますが、痛みをみんなで分け合いましょうということです。

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 さらには「少子”超”高齢化社会」を突き進む日本です。
 2016年の出生数が戦後初めて100万人を割る見込みだそうです。

 出生率と平均寿命の変化を反映しきれなかったときはその分を持ち越し、反映できる状況のときに使える仕組みに変わりました。これも確かに「カット」されてしまうケースでしょう。


 出生率と平均寿命の変化がきちんと加味されていかないと、仕送りを受けている年金受給世代と仕送りしている現役世代の人口構造で考えても、苦しい台所事情になっていくのは誰にでもわかることです。

 とはいえ公的年金には約130~140兆円もの積立金があります。数年先や近い将来で破綻してしまうことはあり得ません。


 将来受け取る年金は本来「長生きをしてしまったときの保障」の仕組みです。これだけ長寿になってしまった日本において、65歳から受け取るのは「長生きをしてしまったとき」にあたるでしょうか。
 65歳以降どうやって収入を得るんだ、病気や障害で働けない、というのは公的年金で解決する問題ではなく社会構造や福祉が対象です。役割分担をきちんと見分ける必要があります。

 受け取る年金額が実質的に増えていかないのは致し方ないことです。それでも受け取る仕組みが一生涯保証されているのは他には存在しない公的な保障であるからこそです。

 とても楽観的にはなれませんが、悲観的になりすぎる必要はありません。
 私はそんなスタンスです。

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 公的年金をはじめとした社会保障の詳細を把握するのは難しいです。
 でも存在意義や概要はおおよそで構いませんからぜひ知っておきたいところです。

 年金のことを書くと長文になってしまいます。
 お読みくださり、ありがとうございます。


 <参照リンク>年金改革法が成立しました 首相官邸 平成28年12月26日

 1つだけ引用します。
  Q 今回の改革により、年金額は減るのですか。
  A 賃金と物価が上がっている経済状況では、今回の改革によるルールが発動されることはなく、年金額は減りません。

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