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人口減少社会での社会保障のあるべき姿【第6章】灌漑施設としての再分配政策


 2020年3月24日に日本医師会から発表された医療政策会議報告書の平成30・令和元年度報告書「人口減少社会での社会保障のあるべき姿」を読みました。

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 全7回の記事で今回が7回目の最終回です。第1回目の序章 医療政策会議における共通基本認識と同じく権丈先生の登場です。
 前回の第5章 医療における「効率」と「費用」の役割はこちら

 本当は報告書を読んでいただくほうが良いのですが、よほどのもの好きでなければ読み込むのはしんどいと思います。私による勝手な引用だけでもぜひ参考になりましたら幸いです。

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■第6章 灌漑施設としての社会保障~社会保障政策の政治経済学~
■終章 平成30・令和元年度医療政策会議報告書あとがき
 権丈 善一(慶應義塾大学商学部教授)

・将来到達すべき目標は、財政の上に立つ、社会保障をはじめとした各種公共政策の持続可能性 p35
・少子高齢化と国民経済の関係を見る指標は、就業者1人当たり非就業者 p36
・人口減少社会で重要な経済政策の指標は1人当たり実質GDPであり、総実質GDPではない p36

・ポピュリズム医療政策の4つの特徴 p37
 名目値で示し将来の負担はこんなに高くなると大衆を脅す・エピソードベースの話をして大衆を驚かす・デマを飛ばす・大衆受けのする話で結ぶ
・上げ潮派が好む予防・健康政策、成長戦略を、私は「やった振り」と称してきたが、二木論文にあるように「レッドヘリング(重要な事柄から人々の注意を逸らそうとする技法、インチキ)」と呼ぶ方が的確 p40

・財源調達で、消費税と並び、野球の3番、4番バッターとなりうる所得税では、高所得者の負担増に頼るだけではさほど財源が得られない(中略)高所得層に課すだけでは広範囲な給付を伴う福祉国家を支えるのに要する多くの税収を期待できない p40
・今の20代の若者たちは、生まれた時から消費税が当たり前のようにあり、買い物時の税金の高い海外にもよく行っている世代である。彼らには「どうして消費増税を10%に上げる程度でこんなに大騒ぎするの?」とみえるようである p43
・高所得者や企業、場合によっては政府による社会全体の総貯蓄が多すぎると、行き着く先は過少消費に陥って、経済の成長力が落ちていく p43

・現代の日本は、基礎的消費の社会化を図る社会保障という水路を全国に張り巡らし、その地域地域の田畑に必要な水を流して、土地を青々と茂らせる「灌漑施設」としての再分配政策に頼らなければ成長も難しいのである p45
・給付先行型福祉国家という特異な国の形を続けてきたのであるから、これからの負担増分のすべてを社会保障で使うことはできない p45
・日本医師会は、社会保障給付の大幅カットによる歳出の縮小という国民の生活を脅かす手段によってインフレを抑えるというような政策そのものを容認することはできない p45

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 高齢期に多くの財源を必要とする公的年金・公的介護保険・公的医療保険。

 年金は高齢者の扶養を社会化したものです。例えば一人っ子同士が結婚して孫が一人という状況の家族は下の世代が少なく、上の世代を養うなんてほとんどの人にとって不可能でしょう。結婚していない人、子どものいない人も同様です。さまざまな生き方が受け入れられる社会は大事です。子どもがいたとしても離れて暮らしている場合、難易度は相当に上がります。社会化されていることで安心につながります。

 介護は若い世代(40歳以上)で保険料を払っていても高齢にならないと受けないし…となりがちですが、これも介護の社会化です。介護保険制度がなければ家族が対応するしかありません。家族の負担が小さくなっているわけです。

 医療は私も勉強中なのでうまく表現できませんが、医療費が増大する=保険料や税が多く必要になる=若い世代の負担増=でも医療費が増大ということは医療関係で所得(収入)を得る人が増えるという流れもあるんです。これは介護も同じです。対人社会サービスの充実って若い世代にもお金が戻ってきている面があるんです。


 社会保障と経済は表裏一体・一蓮托生です。つながっています。負担ばかり強調される報道があふれていますし、実際に負担が大きくなっているのは間違いありませんが、私たち現役世代は給付をもっとしっかり知る必要があります。社会保障はインフラ(灌漑施設)になっていると言えますし、再分配の考え方や給付があるからこそ雇用も生まれる、という視点も合わせて持ちたいものです。

 今回のリンクまとめです。
 ・【序章】共通基本認識
 ・【第1章】成熟社会は資産選好が強くなる
 ・【第2章】社会保障給付費はGDPの従属変数
 ・【第3章】治療偏重から本人の暮らしや生きがい尊重にシフト
 ・【第4章】開業医の後継者不足の問題は深刻化
 ・【第5章】医療と配分の効率性
 ・【第6章】灌漑施設としての再分配政策 → 本記事です。

 大袈裟に書くと、シリーズ完結です。次はまた2年後。この報告書は読みごたえがあって勉強になります。
 長文をお読みくださってありがとうございました。


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